荒井隆秀
もう一度、歩き出すそばに
荒井隆秀|もう一度、歩き出すそばに
人は、もう一度
自分を取り戻すことができる。
私は、その瞬間に
立ち会い続けてきました。
これは、一人の治療家の記録です。
ここに来るまでに、
たくさんの遠回りがありました。
うまくいかなかった日々も、
立ち止まっていた時間も、
数えきれないほどあります。
それでも、
いま私は
この場所に立っています。
【プロフィール】
あの日の出来事が、
いまの私の原点になっています。
小学校に入学して間もなく、父の転勤で転校することになりました。
最初に通った学校で、先生から任された役目があります。
「黒板に何か書いてあったら、きれいに消しておいてね」
みんなが気持ちよく次の時間を迎えられるように。
ただそれだけの、小さな役目でした。
転校した初日。
教室いっぱいに人気キャラクターが見事に描かれていました。
そのとき、私はふと思い出しました。
黒板はきれいにしておくもの。
次に使う人のために。
そう信じて、丁寧に消しました。
あとから知りました。
それは、クラスの絵の上手な子が
みんなのために描いてくれたものだったのです。
「誰が消した」
教室中の視線が、一斉に私へ向きました。
そこから長い時間、
教室の中で居場所を失いました。
身体も壊し、
心も追い込まれていきました。
四年生までの記憶がほとんどありません。
その間、自分の命を削るような状態にもなりました。
大人になり、起業しました。
しかしうまくいかず、
家族も、住む場所も、仲間も失いました。
強い抑うつと、
歩くことも難しいほどのめまい。
病院では
「仕事をやめなければ良くならない」
そう告げられました。
未来が見えませんでした。
そんなとき、
めまいの治療に通っていた整体院で、
一人の治療家の姿を目にしたのです。
施術を終えたおばあちゃんが、
涙を流しながら何度も頭を下げている。
心からの感謝でした。
その光景を見たとき、
胸の奥に強く湧き上がるものがありました。
人は、もう一度立ち上がれるのかもしれない。
私は、その先生に入門を願い、
整体の道へ進みました。
再び起業してからも、
決して順風満帆ではありませんでした。
学んだ通りに行っても、
思うような変化が出ない。
そのたびに自問しました。
「自分には無理なのだろうか」
しかし臨床を重ねる中で、
はっきりと分かってきたことがあります。
身体だけを見ていては、
目の前の人は本当の意味で楽になっていかない。
痛みの奥には生活があり、
我慢があり、
言葉にできない感情や、
長年続いてきた思考の癖がある。
そこに触れなければ、
また同じ場所へ戻ってしまう。
だから私は、
患者さんにとって
もっと近い存在でありたいと思うようになりました。
身体の緊張だけでなく、
その人の内側で起きていることにも目を向ける。
その積み重ねの先にこそ、
回復への道がある。
そう考え、
今の施術のかたちになりました。
【なぜ、私はこの仕事を続けているのか】
理由は、
特別なものではありません。
目の前で、
もう一度立ち上がろうとする人の姿に、
何度も救われてきたからです。
人が回復していく瞬間には、
言葉にならない力があります。
その場に立ち会うたびに、
私はこの道でよかったと
教えられてきました。
だから今日も、
ここにいます。
【私が現場で見続けてきたこと】
不調を体だけの問題として扱うと、
一度は楽になっても、また戻ってしまうことがあります。
私はそれを何度も見てきました。
だから身体だけではなく、
その人がどんな人生を歩み、
どんな我慢を重ね、
どんな思考や感情の癖を身につけてきたのかを見るようになりました。
特に、
「真面目」という鎖に繋がれた生き方をしていないか。
そこに注意深く目を向け続けています。
【それでも人は変われる理由】
長く続いてきたクセは、
簡単には変わりません。
自分では気づけないからです。
けれど、
外から関わることで、
初めて見える瞬間があります。
東洋の思想に、
心と身体はひとつ、という考えがあります。
身体がゆるめば、
心の受け取り方も変わっていく。
私はその変化を、
何度も目の前で見てきました。
どんな状況でも。
私は、
人は変われると知っています。
かつての私自身が、
そうだったからです。
【今、目の前のあなたへ】
ここまで読んでくださったということは、
あなたも長い時間、
ひとりで頑張ってきたのかもしれません。
その身体のサインは、
壊れた証拠ではなく、
生き抜いてきた証だと私は思っています。
私は、
その努力を否定するためにここにいるのではありません。
よくここまで頑張ってきましたね、と
受け取るためにここにいます。
ここまで読んで、
もし心に何かが残ったなら。
今すぐ答えを出さなくても構いません。
それでももし、
一度話してみたいと思う瞬間が訪れたなら。
そのときは、
私のことを思い出してください。
あなたの歩幅に合わせて、
お迎えします。
荒井隆秀
もう一度、歩き出すそばで